百人一首 1〜10番

現代語訳とひとこと解説つき。赤い文字はその歌の決まり字。「▶ 朗詠」で読み手の声を聞けます。

1番 決まり字「あきの」(3字)
あきのたの
かりほのいおの
とまをあらみ
上の句
わがころも
ではつゆに
ぬれつつ
下の句

秋の田のかりほの庵のとまをあらみ / 我がころも手は露にぬれつつ

あきのたの かりほのいおの とまをあらみ / わがころもでは つゆにぬれつつ

天智天皇

現代語訳
秋の田んぼのほとりに建てた、稲の番をするための仮小屋にいると、屋根をふいた苫の編み目があらいので、私の袖は夜露にぬれ続けていることだ。
ことばと技法
「かりほ」は「仮庵(かりいほ)」がつづまった形で、収穫の時期に田を見張るための粗末な小屋のこと。「苫をあらみ」は「苫の編み目があらいので」という意味で、「〜を…み」は理由を表す古い言い方。
背景と鑑賞
天皇みずからが農民の夜番のつらさを体験するかのようによんだ歌で、民を思うやさしさの歌として百人一首の巻頭に置かれた。もとは民謡風の歌が、天智天皇の作として伝わったものと考えられている。
2番 決まり字「はるす」(3字)
はるすぎて
なつきにけらし
しろたえの
上の句
ころもほす
ちょうあまの
かぐやま
下の句

春過ぎて夏来にけらし白妙の / 衣ほすてふ天の香具山

はるすぎて なつきにけらし しろたえの / ころもほすちょう あまのかぐやま

持統天皇

現代語訳
春が過ぎて、いつのまにか夏がやって来たらしい。夏になると真っ白な衣を干すという天の香具山に、白い衣がひるがえっているよ。
ことばと技法
「けらし」は「来たらしい」というやわらかな推定。万葉集のもとの歌は「春過ぎて夏来るらし……衣干したり」と言い切る力強い形だったが、新古今集に入るとき「けらし」「ほすてふ」と伝え聞いた調子に変えられた。
背景と鑑賞
香具山は奈良の大和三山のひとつで、天から降ってきたと伝わる神聖な山。白い衣と初夏の緑の対比がすがすがしく、季節の変わり目を一枚の絵のように切り取っている。作者の持統天皇は1番・天智天皇の娘で、親子で巻頭に並ぶ。
3番 決まり字「あし」(2字)
あしびきの
やまどりのおの
しだりおの
上の句
ながながし
よをひとり
かもねむ
下の句

あしひきの山どりの尾のしだり尾の / ながながし夜をひとりかもねむ

あしびきの やまどりのおの しだりおの / ながながしよを ひとりかもねむ

柿本人麻呂

現代語訳
山鳥の垂れ下がった尾の、あの長い長い尾のように長い秋の夜を、恋しい人に会えないまま、たった独りで寝るのだろうか。
ことばと技法
「あしびきの」は山にかかる枕詞。さらに「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」という上の句まるごとが「ながながし」を引き出す序詞になっていて、五・七・五をぜんぶ前置きに使う大技が決まっている。
背景と鑑賞
山鳥は夜になると雄と雌が谷をへだてて別々に眠るといわれ、独り寝の象徴だった。作者の柿本人麻呂は「歌聖」と呼ばれる万葉集最大の歌人。秋の夜長の寂しさが、尾の長さのイメージでどこまでも引き伸ばされていく。
4番 決まり字「たご」(2字)
たごのうらに
うちいでてみれば
しろたえの
上の句
ふじのたか
ねにゆきは
ふりつつ
下の句

田子の浦にうちいでて見れば白妙の / 富士の高嶺に雪はふりつつ

たごのうらに うちいでてみれば しろたえの / ふじのたかねに ゆきはふりつつ

山部赤人

現代語訳
田子の浦の海辺に出て、はるかに見わたすと、富士の高い峰に、真っ白な雪が降り積もっていることだ。
ことばと技法
「うち出でて」の「うち」は勢いを添えることば。「白妙の」はもともと白い布のことで、ここでは「真っ白な」という意味で雪の描写に使われている。
背景と鑑賞
万葉集のもとの歌は「真白にぞ……雪は降りける」で、目の前に雪が降りしきる臨場感があった。作者の山部赤人は自然をよませたら随一といわれ、人麻呂と並び称される歌人。晴れた日の富士を飾らない言葉で描いた、日本人の富士山観の原点のような一首。
5番 決まり字「おく」(2字)
おくやまに
もみじふみわけ
なくしかの
上の句
こえきくと
きぞあきは
かなしき
下の句

おく山に紅葉ふみわけなく鹿の / 声きく時ぞ秋はかなしき

おくやまに もみじふみわけ なくしかの / こえきくときぞ あきはかなしき

猿丸大夫

現代語訳
人里はなれた奥深い山で、散り敷いた紅葉を踏み分けて鳴いている鹿の声を聞くとき、秋はいっそう悲しく感じられることだ。
ことばと技法
紅葉を踏み分けているのは作者なのか鹿なのか、昔から両方の読み方がある。「声聞くときぞ」の「ぞ」は強調の係助詞で、結びが「悲しき」と連体形になる係り結び。
背景と鑑賞
秋に雌を求めて鳴く雄鹿の声は、古くから秋の寂しさの代名詞だった。作者とされる猿丸大夫は三十六歌仙に数えられながら、実在したかどうかすらわからない謎の人物。静かな山に鹿の声だけが響く、水墨画のような一首。
6番 決まり字「かさ」(2字)
かささぎの
わたせるはしに
おくしもの
上の句
しろきをみ
ればよぞふ
けにける
下の句

かささぎのわたせる橋におく霜の / 白きを見れば夜ぞふけにける

かささぎの わたせるはしに おくしもの / しろきをみれば よぞふけにける

中納言家持

現代語訳
かささぎが翼を連ねて天の川に渡すという橋——その橋にたとえられる宮中の御階(みはし)に、霜が真っ白に降りているのを見ると、夜もすっかり更けたのだなあ。
ことばと技法
「かささぎの渡せる橋」は、七夕の夜にかささぎの群れが翼で天の川に橋をかけ、織姫を渡すという伝説から。宮中では御殿の階段を天上に見立てて「かささぎの橋」と呼んだ。
背景と鑑賞
冬の夜の白い霜から、七夕の星空へと一気に想像が飛ぶ、地上と天を重ねた幻想的な歌。作者の大伴家持(中納言家持)は万葉集を編さんしたと伝わる歌人で、三十六歌仙のひとり。
7番 決まり字「あまの」(3字)
あまのはら
ふりさけみれば
かすがなる
上の句
みかさのや
まにいでし
つきかも
下の句

天の原ふりさけ見れば春日なる / 三笠の山に出でし月かも

あまのはら ふりさけみれば かすがなる / みかさのやまに いでしつきかも

阿倍仲麻呂

現代語訳
大空をはるかに見わたすと、月が昇っている。あの月は、ふるさとの奈良の春日にある三笠の山に昇っていたのと、同じ月なのだなあ。
ことばと技法
「天の原」は広々とした大空。「ふりさけ見れば」は「はるかに仰ぎ見ると」という意味。遠い異国で見る月と、ふるさとの月を重ねるまっすぐな構成が胸を打つ。
背景と鑑賞
作者の阿倍仲麻呂は遣唐使として16歳で唐に渡り、玄宗皇帝に仕えた秀才。この歌は帰国の送別の宴でよんだと伝わる。しかし船は嵐で難破してベトナムに漂着し、ついに日本の土を踏むことなく唐で生涯を終えた。
8番 決まり字「わがい」(3字)
わがいおは
みやこのたつみ
しかぞすむ
上の句
よをうじや
まとひとは
いうなり
下の句

我が庵は都のたつみしかぞすむ / 世を宇治山と人はいふなり

わがいおは みやこのたつみ しかぞすむ / よをうじやまと ひとはいうなり

喜撰法師

現代語訳
私の庵は都の東南にあり、このように心静かに暮らしている。それなのに世間の人は、私が世をつらく思って隠れ住む「宇治山」だと言っているそうだ。
ことばと技法
「たつみ」は辰巳=東南の方角。地名の「宇治」に「憂し(つらい)」を掛けた掛詞がこの歌の芯で、「世を憂ぢ山」と読める仕掛けになっている。
背景と鑑賞
作者の喜撰法師は六歌仙のひとりなのに、経歴はまったくの謎で、確かな歌はこの一首しか残っていない。世間のうわさをやんわり受け流すユーモアが持ち味で、お茶の銘柄「喜撰」の名の由来にもなった。
9番 決まり字「はなの」(3字)
はなのいろは
うつりにけりな
いたずらに
上の句
わがみよに
ふるながめ
せしまに
下の句

花の色はうつりにけりないたづらに / わが身世にふるながめせしまに

はなのいろは うつりにけりな いたずらに / わがみよにふる ながめせしまに

小野小町

現代語訳
桜の花の色は、春の長雨が降り続く間に、すっかり色あせてしまった。私の美しさも、もの思いにふけってぼんやり過ごしている間に、むなしく衰えてしまった。
ことばと技法
「ふる」に「(雨が)降る」と「(時を)経る」、「ながめ」に「長雨」と「眺め(もの思い)」を掛けた二重の掛詞。花の色に自分の容色を重ねる読みも含め、短い歌に意味が幾層にも折りたたまれている。
背景と鑑賞
作者の小野小町は平安前期の女流歌人で、絶世の美女の代名詞。散る桜に若さの衰えを重ねるこの歌は、日本文学で繰り返し歌われる「花と無常」の原型になった。六歌仙・三十六歌仙のひとり。
10番 決まり字「これ」(2字)
これやこの
ゆくもかえるも
わかれては
上の句
しるもしら
ぬもおうさ
かのせき
下の句

これやこの往くもかへるも別れては / 知るも知らぬも逢坂の関

これやこの ゆくもかえるも わかれては / しるもしらぬも おうさかのせき

蝉丸

現代語訳
これがまあ、東国へ行く人も都へ帰る人も、知っている人も知らない人も、みなここで出会っては別れていく、あの有名な逢坂の関なのだなあ。
ことばと技法
「これやこの」は「これがあの有名な」という感動をこめた言い方。「行く/帰る」「知る/知らぬ」という反対語の対句をたたみかけ、地名「逢坂」の「逢う」に人と人の出会いを響かせている。
背景と鑑賞
逢坂の関は都と東国の境(今の京都府と滋賀県の境あたり)にあった関所で、旅人が必ず通る場所だった。作者の蝉丸は琵琶の名手と伝わる盲目の歌人で、能や説話の主人公にもなった伝説の人。人の世の出会いと別れを、たった31音に収めている。

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