百人一首 11〜20番

現代語訳とひとこと解説つき。赤い文字はその歌の決まり字。「▶ 朗詠」で読み手の声を聞けます。

11番 決まり字「わたのはらや」(6字)
わたのはら
そしまかけて
こぎいでぬと
上の句
ひとにはつ
げよあまの
つりぶね
下の句

わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと / 人にはつげよあまのつり舟

わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと / ひとにはつげよ あまのつりぶね

参議篁

現代語訳
大海原に浮かぶたくさんの島々をめざして、私は漕ぎ出していったと、都にいるあの人に伝えておくれ。漁師の釣舟よ。
ことばと技法
「わたの原」は大海原、「八十島」は数多くの島のこと。都の人に言葉を届けるすべがなく、通りすがりの釣舟に伝言を託すところに切なさがある。
背景と鑑賞
作者の小野篁(参議篁)は、遣唐副使に選ばれながら乗船を拒否して怒りを買い、隠岐へ流罪になった。この歌はその船出のときの一首。学問の天才で、夜は冥途で閻魔大王に仕えたという伝説まで残る人物。
12番 決まり字「あまつ」(3字)
あまつかぜ
くものかよいじ
ふきとじよ
上の句
おとめのす
がたしばし
とどめむ
下の句

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ / をとめの姿しばしとどめむ

あまつかぜ くものかよいじ ふきとじよ / おとめのすがた しばしとどめむ

僧正遍昭

現代語訳
空を吹く風よ、雲の中の通り道を吹き閉じておくれ。天女たちの美しい姿を、もうしばらくこの地上にとどめておきたいのだ。
ことばと技法
「天つ風」の「つ」は「〜の」を表す古い助詞。宮中の舞姫を天女に見立て、「帰り道の雲を閉ざしてほしい」と大まじめに頼む、みやびな誇張の歌。
背景と鑑賞
宮中で舞われる五節の舞をよんだ歌で、舞姫たちがあまりに美しく、天に帰る天女に見えたという趣向。作者の僧正遍昭は出家前は良岑宗貞という貴公子で、六歌仙のひとり。これは出家前の作。
13番 決まり字「つく」(2字)
つくばねの
みねよりおつる
みなのがわ
上の句
こいぞつも
りてふちと
なりぬる
下の句

つくばねの峰よりおつるみなの川 / 恋ぞつもりて淵となりぬる

つくばねの みねよりおつる みなのがわ / こいぞつもりて ふちとなりぬる

陽成院

現代語訳
筑波山の峰から落ちる男女川が、しだいに水かさを増して深い淵になるように、私の恋心も積もり積もって、今では淵のように深くなってしまった。
ことばと技法
上の句「つくばねの峰より落つるみなの川」が「積もる」を導く序詞。細い流れが深い淵になる川の姿と、恋心が育っていく時間が重ねられている。
背景と鑑賞
作者の陽成院は9歳で即位し、17歳で退位させられた天皇。この歌は釣殿の皇女とよばれた綏子内親王に贈ったもので、のちにふたりは結ばれた。激しい人物として伝わる院の、意外なほどひたむきな恋の歌。
14番 決まり字「みち」(2字)
みちのくの
しのぶもじずり
たれゆえに
上の句
みだれそめ
にしわれな
らなくに
下の句

陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに / 乱れそめにしわれならなくに

みちのくの しのぶもじずり たれゆえに / みだれそめにし われならなくに

河原左大臣

現代語訳
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心は乱れはじめている。いったい誰のせいで——私のせいではなく、あなたのせいなのに。
ことばと技法
「しのぶもぢずり」は陸奥(福島あたり)の名産だった、乱れ模様の摺り染めの布。上の句がその模様から「乱れ」を導く序詞で、「乱れそめにし」には「染め」と「初め」が掛かる。
背景と鑑賞
作者の河原左大臣こと源融は、嵯峨天皇の皇子で、京都に豪邸・河原院を構えた風流人。光源氏のモデルのひとりともいわれる。恋に乱れる心を、布の乱れ模様にあずけた技巧と情熱の一首。
15番 決まり字「きみがためは」(6字)
きみがため
るののにいでて
わかなつむ
上の句
わがころも
でにゆきは
ふりつつ
下の句

君がため春の野に出でて若菜つむ / 我が衣手に雪はふりつつ

きみがため はるののにいでて わかなつむ / わがころもでに ゆきはふりつつ

光孝天皇

現代語訳
あなたに差し上げるため、春の野に出て若菜を摘んでいる私の袖に、雪がちらちらと降りかかってくることだ。
ことばと技法
「君がため」と言い切ってから、春の野・若菜・雪と清らかな景物を重ねていく素直な構成。初春に若菜を摘んで人に贈り、健康を祈る風習がふまえられている。
背景と鑑賞
作者の光孝天皇は、55歳で思いがけず即位した苦労人で、即位前のこの歌には人柄のあたたかさがにじむ。春の淡雪と若菜の緑、真心の組み合わせが美しい、贈り物に添えられた一首。
16番 決まり字「たち」(2字)
たちわかれ
いなばのやまの
みねにおうる
上の句
まつとしき
かばいまか
えりこむ
下の句

立ち別れいなばの山の峰に生ふる / まつとしきかば今かへり来む

たちわかれ いなばのやまの みねにおうる / まつとしきかば いまかえりこむ

中納言行平

現代語訳
あなたと別れて因幡の国へ行くけれど、因幡の山の峰に生える松ではないが、あなたが「待つ」と聞いたなら、すぐにでも帰ってきましょう。
ことばと技法
「いなば」に地名の「因幡」と「往なば(行ってしまったら)」、「まつ」に「松」と「待つ」を掛けた、二重の掛詞が骨組みの歌。
背景と鑑賞
作者の在原行平は、17番・業平の兄。因幡守として赴任するときの送別の歌で、残る人々への深い情が掛詞の技巧に包まれている。「待つと聞かば今帰り来む」は、離れる人への言葉として今も引用される名句。
17番 決まり字「ちは」(2字)
ちはやぶる
かみよもきかず
たつたがわ
上の句
からくれな
いにみずく
くるとは
下の句

ちはやぶる神代もきかず龍田川 / からくれなゐに水くくるとは

ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ / からくれないに みずくくるとは

在原業平朝臣

現代語訳
神々の時代にさえ、こんなことは聞いたことがない。竜田川が一面の紅葉で、水を真紅の絞り染めにしてしまうとは。
ことばと技法
「ちはやぶる」は神にかかる枕詞。「からくれなゐ」は舶来の鮮やかな紅色、「水くくる」は水を絞り染めにするという大胆な見立て。
背景と鑑賞
作者の在原業平は伊勢物語の主人公とされる平安きってのモテ男で、六歌仙のひとり。この歌はかつて愛した二条后の前で、屏風の竜田川の絵によんだと伝わる。競技かるたを描いた漫画『ちはやふる』の題名でも有名。
18番 決まり字「す」(1字)
みのえの
きしによるなみ
よるさえや
上の句
ゆめのかよ
いじひとめ
よくらむ
下の句

住の江の岸による波よるさへや / 夢の通ひ路人目よくらむ

みのえの きしによるなみ よるさえや / ゆめのかよいじ ひとめよくらむ

藤原敏行朝臣

現代語訳
住の江の岸に打ち寄せる波の「よる」ではないが、夜でさえ、あなたは夢の中の通い路でも人目を避けて、会いに来てはくれないのですね。
ことばと技法
上の句「住の江の岸による波」が「よる(夜)」を導く序詞。夢の中でなら自由に会えるはずなのに、夢でまで人目をはばかるとは、と恨む理屈が切ない。
背景と鑑賞
当時は、相手が自分を思ってくれると夢に現れると信じられていた。作者の藤原敏行は三十六歌仙のひとりで、書の名人としても知られる。歌合のためによまれた、女性の立場での恋の歌。
19番 決まり字「なにわが」(4字)
なにわが
みじかきあしの
ふしのまも
上の句
あわでこの
よをすぐし
てよとや
下の句

難波潟みじかき芦のふしの間も / あはでこの世を過ぐしてよとや

なにわがた みじかきあしの ふしのまも / あわでこのよを すぐしてよとや

伊勢

現代語訳
難波潟の入り江に生える芦の、短い節と節の間ほどのわずかな時間さえ会えないまま、この世を過ごせとあなたは言うのですか。
ことばと技法
「難波潟短き芦の」が「節の間=短い時間」を導く序詞。「よ」には芦の「節」と「世」が響き合う。短いものづくしで会えないつらさを際立たせている。
背景と鑑賞
作者の伊勢は宇多天皇に愛された平安前期を代表する女流歌人で、情熱的な恋の歌の名手。三十六歌仙のひとり。わずかな逢瀬さえ拒む相手への、抗議のような激しい恋の歌。
20番 決まり字「わび」(2字)
わびぬれば
いまはたおなじ
なにわなる
上の句
みをつくし
てもあわむ
とぞおもう
下の句

わびぬれば今はた同じ難波なる / 身をつくしても逢はむとぞ思ふ

わびぬれば いまはたおなじ なにわなる / みをつくしても あわむとぞおもう

元良親王

現代語訳
こんなにつらく思い悩んでいるのだから、今となってはもう同じこと。難波の澪標ではないが、この身を尽くしてでも、あなたに会いたいと思う。
ことばと技法
「みをつくし」に、船の通り道を示す杭「澪標」と「身を尽くし」を掛けた有名な掛詞。「わびぬれば」は「思い悩んでしまったので」という意味。
背景と鑑賞
作者の元良親王は陽成院の皇子で、恋多き貴公子として知られた。宇多上皇の妃・京極御息所との禁じられた恋が発覚したあとの歌と伝わり、破滅を覚悟してなお会いたいという捨て身の情熱がこもる。

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